WILD SIDE CLUB - 映画について -

新作・旧作を問わず映画について書いています。長い映画大好き。まれにアートや演劇についても。

『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』

下記の『ミスター・ダイナマイト』の記事に書きましたように、以前やっていたブログの記事を転載します。

 

hodie-non-cras.hatenablog.com

 

 

以下は、ジェームス・ブラウンの伝記映画『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』を観たあと、 2015.07.11に書いたものです。

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原題:Get On Up(2014年アメリカ・イギリス/139分)
監督:テイト・テイラー
製作:ブライアン・グレイザーミック・ジャガーテイト・テイラー、ビクトリア・ピアマン
出演:チャドウィック・ボーズマンネルサン・エリスダン・エイクロイドヴィオラ・デイヴィス、オクダヴィア・スペンサーほか
公式サイト:jamesbrown-movie.jp

 

いわずとしれたファンクの父、JBの伝記映画


飛行機の中で観たのだけれど、改めて映画館でも観て来た。
機内ヴァージョンは結構カットされてる部分があったので、やっぱり観に行ってよかった。

過酷な少年時代、刑務所、ゴスペルからバンドへ、レコード会社との契約、仲間割れ…
典型的と言えば言える、スターの半生を、フラッシュバックのような形で少年時代を織り込みつつ描いている。

 

歌をくれ、歌を!


主演のボーズマンは、動きもいいけれど(特に歩き方!)何より話し方がいい。
普段はどんな風に話す人なのか見てみたいくらい、映画の中ではJBっぽかった。

この映画を機内で観たときは日本語字幕がなかったので、細かいところがよくわからなかった。
それで二回目はフランス語の吹き替えで観ることにした(英語よりはわかるはずなので)。
でも、もう冒頭のシーンで「いや、ちがうちがう」と、結局英語に戻してしまった。
なんか全然JBじゃないんだもん。

あの「しゃべり」のリズムはフランス語では現せない。日本語でも。
言葉のリズムや旋律が、その言葉の持つ意味よりも重要なことってあるんだよね。
この映画は、吹き替えでは魅力が半減する。

レコード会社の社長がJBの歌を聴き「なんだこれは?!"Please please please"ばっかりじゃないか。歌をくれ歌を!」といい、プロデューサーが「いや、歌じゃないんですよ、聴けばわかります」と返す場面があった。
ここで言う「歌」とは「意味」ということだろう。
大事なのは「意味(歌の持つ意味、あるいは意味のある歌)」じゃない。JBの歌を聴けば、それがわかる、と。

大きく頷くとともに、音楽とは、歌とは何か、ということを考えさせられる場面だった。

 

俺たちはみんなドラムを叩いてるんだ


この作品のいいところは、やはり音楽を中心に据えているところだ。
いずれDVDになるかもしれないけど、ライブステージの場面は映画館でみるべき。
もちろんボーズマンはJBではないけれど、違和感なくかっこいい。
(機内バージョンではライブ場面がけっこうカットされてた気がする…なんで?)
ファンク好きならきっとワクワクします。

もっとワクワクしたのは"Cold Sweat"のリハーサルの場面。
JBが(っていうかボーズマンが、だけど)口太鼓でリズムを刻むところがもう大好き。
この曲が好きだということもあるけど。
確か同じ場面で、JBがミュージシャンたちに「俺たちはみんなドラムを叩いてるんだ」というようなことを言う。
いやあ、なるほど…そういうことか、と納得しましたね。
(バンドの人たちはあんまり納得してないみたいだったけど。笑)

 

"Try Me"が現すもの

 

音楽以外の部分については、例えば過酷な少年時代を描いてはいても、その過酷さの方に焦点をあて過ぎていないし、恋愛や家庭生活などのサイドストーリーも深追いしない。
そしてなにより、JBの内面をことさらに描き出そうとはしていない。(たぶん。もちろん滲み出てはいる)
ボーズマンの演技もそういう線に沿っている。
そこが私は気に入った。

なんていうか…
あまり直接的には描かれていないJBの内面は、観ているあなたたちが想像を巡らせる部分だよ、という演出である気がする。
青年時代以降に少年時代がフラッシュバックするようになっている構成はそれを助けているし、時折JBが直接カメラに向かって語りかけて来るところがあるけれど、それは「JBってこんな風に見えたけど、実際(内実は)どうだったんだろうね?」と監督/演出家が観客に問うているような気もした。

そうやって全編を通してあまり内面を描かないことによって、最後に来る"Try Me"が際立つ。
ここへ来て監督/脚本家は、JBの歌に、そこで歌われている以上の意味を持たせた…

 

「ゲロンナ」あっての「ゲロッパ

 

で、やっぱり「ゲロンナ」あっての「ゲロッパ」だなーと思いました。
才能に惚れ込んで支えてくれる人っていう比喩的な意味もあるけど、実際ボビー・バードの「ゲロンナ」がないと"Get On Up"の良さは半減、というか、この曲は成り立ちません。

そのことを描いている映画です(←ホントか?)。

なんか書いているうちにもう一回観たくなって来た…
でもたぶんもう都内ではやってないよね。残念。

 

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以上、ちょうど一年くらい前に書いたものの転載でした。

これを観てからドキュメンタリーの方を観たので、ボビー・バードがにこにこしながら証言しているのを見て、なんだか懐かしい人に会ったような気がしてしまいました。

ドキュメンタリーを観て、JBと仕事をしていた人たち、関わった人たちの中で、人としてのJBを好きな人ってあまり多くないんじゃないかという気がしていますが、ボビー・バードだけは「愛憎相半ばする」という心境だったのではないかな…

まあ、わかりませんけれども、やっぱりボビー・バードの「ゲロンナ」は他の人のとは違いますね。