WILD SIDE CLUB - 映画について -

新作・旧作を問わず映画について書いています。長い映画大好き。まれにアートや演劇についても。

『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』 - 大人になるとき親はいらない

ティム・バートン監督の『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』を観てきました。


監督:ティム・バートン
製作年:2016年
製作国:アメリ

www.foxmovies-jp.com

 (以下、内容に触れています)

 

 

ナチスの影 ー 奇妙な子どもたちとは

この作品に原作があるとは知らずに観ました。(読んでいません)

ハヤブサが守る家 (海外文学セレクション)

ハヤブサが守る家 (海外文学セレクション)

 

 

ティム・バートン史上最も奇妙」というキャッチ・コピーの本作品、最も、かどうかはわかりませんが、特殊な能力を持つ奇妙といえば奇妙な子どもたちが出て来ます。

その子どもたちが繰り広げるファンタジー、というのを想像していたのですが、そうでもなかったですね。もちろん彼らは活躍していますし、彼らがごく普通の子どもたちだったら話はまわらないだろうと思いますが、これはちょっと周りから浮いている、ジェイクという男の子の冒険と成長の物語でした。

 

その背景は第二次世界大戦。”奇妙な子どもたち”はナチスドイツに爆弾を落とされることになる家で暮らしていました。彼らを守っているのが、ハヤブサの化身(逆か?ハヤブサになることができる?)ミス・ペレグリンで、時間を操作できる能力を持っている。

彼らを襲って来る恐ろしい怪物の名は”ホロゴースト”(何故か字幕や公式サイトでは”ホローガスト”となっていますが、作中”ホロゴースト”って言ってい るように聞こえました、私には)。だからこの作品を反戦とか反ナチスとかの文脈で観ることもできるとは思います。その意味ではとてもわかりやすい話ですし、”奇妙なこどもたち”とは、ユダヤ人、もっと拡げれば戦時下で虐げられたすべての人々を指すのかもしれません。
 

 

やっぱり出て来る「父と息子」問題、そして存在希薄な母 

 

ですが、そういう大きな話は単に枠組みであって、私が個人的に気になってしまうのが、父と息子の問題です。


ジェイクの祖父エイブは、ジェイクが小さい頃に、奇妙な子どもたちのことを写真をみせながら話して聞かせていました。ジェイクはおじいちゃんっ子で、もちろんエイブの話は全部信じたし、その話を学校で発表して、みんなにからかわれるようになってしまいます。

ティーネイジャーになったジェイクは、独居しているエイブに時々会いに行っていますが、叔母と一緒にエイブの家に向かう車中での会話から、ジェイクの父フランクはあまり自分の父親のことを思いやっていないのが感じられます。

フランクは、自分が子どもの頃には父エイブが留守がちで、自分はあまり構ってもらえなかった、きっと浮気していたのだろうと思っています(実際は奇妙なこどもたちの家に行っていたのだろう、と観客は想像します)。エイブはエイブでフランクが煙たい。(忘れちゃったのですが、奇妙なこどもたちの話を子どもの頃のフランクに話したけれども信じなかったのだっけ?)

物語はジェイクの祖父エイブが不審な死を遂げるところから動き始めます。

ジェイクはフランクと違ってエイブを気にかけていたし、だからこそその死はつらかった。助けてあげられなかったという思い。普通じゃない死に方はきっと過去に話してくれたことに関係があるに違いない。例の子どもたちがいた施設へ行きたい…

ジェイクには母親もいますが、関わりが非常に希薄で、登場しなくてもいいくらいの登場しかしません(名前もおぼえてない…)。例の施設を訪ねてみたいと言うジェイクにも、自分は行けない、と言うだけ。しぶしぶフランクが付き添うことになりますが、それもライターとしての自分の仕事の足しになるかもしれない、という下心込みだったりします(後にこのもくろみははずれて、不機嫌丸出しに…)。

ジェイクとフランクはこれまた微妙な関係で、フランクはエイブを信じていないから、ジェイクの話も信じない。そして自分も結構ジェイクに構っていないということに無自覚です。

ジェイクはそんな両親に対して大きく反抗したりはしません。

わかりあえない二組の父と息子の問題は最後まで(物語の中では)顕在化しませんし、母もどこへ行ったやら、です(どこかに行ってしまったわけではありませんけど)。

 

とにかくジェイクは、自分でも知らなかった能力によって、この不思議な世界の子どもたちを危機から守ります。やむなく別れ別れになり、一旦は自分の家に戻りますが、(おじいちゃんの知恵を借りつつ)自分で道を見つけ、最後には子どもたちと再会するのです。


 

普通にエンターテインメント


戦争のことや家族問題などごちゃごちゃしたことを一切考えなくても、普通に充分楽しい作品です。ティム・バートンが好きならなおさらですが、そうでなくても。若干グロテスクなところもあるので、そういうの絶対ダメ!という人はダメかもしれませんが…

いかにも、なイギリスのお屋敷もいいし(廃墟も含めて)、ミス・ペレグリンエヴァ・グリーンがかっこいい(作中大活躍、でもなかったけれどもヴィジュアルが)。メイク真似したいくらいでしたね。

特にクライマックスの遊園地での戦いのシーンは、音楽(BGMではなくて、遊園地で鳴っている)とあいまって、緊迫した場面なのにユーモラスで、なるほどティム・バートン、って感じでした(ペンキで見えるのかよ、っていうこともありますが、まあ、ね)。