WILD SIDE CLUB - 映画について -

新作・旧作を問わず映画について書いています。長い映画大好き。まれにアートや演劇についても。

フレデリック・ワイズマン『パブリック・ハウジング』ー シカゴの公共住宅

3月18日からシネマヴェーラ渋谷でワイズマン特集上映が始まりました。
昨年に続き二度目の特集ですね。31日までの開催です。
 
ワイズマン、好きなんですよね。

BGMなし、ナレーションなし、インタビューなし、のドキュメンタリー。

ドキュメンタリーであるかないかはあまり問題ではなくて、彼の作品がフィクションであったとしても、おもしろいと思います。
(と言いつつも、モノによってはちょこちょこ寝ちゃうんですけど)
 
 
今回、まずは『パブリック・ハウジング』を観てきました。
 
パブリック・ハウジング Public Housing(16mm)
 
原題:Public Housing
製作年:1997年
カラー16mm, 195分
 
(以下、内容に触れています) 
 

アフリカと決定的に違うこと

 
今回の特集では、21作品を観ることができますが、その中で一番観たかったのがこれです。なぜだろう? なぜか普通の人々の普通の生活に興味があるんですね。
 
カメラはシカゴの郊外にあるかなり大きな団地の日常を写しています。
住民はほとんどが黒人で、外で遊ぶ子どもたちやイスを出してひなたぼっこをしている人々なんかを見ていると、アフリカっぽくもあるのですが、やはりアフリカとはだいぶ違う。
アフリカだったらそこら中から音楽が聞こえて来るし、もっと陽気だけれど、ここはなんというか荒涼としているというか殺伐とした雰囲気です。
しょっちゅうポリスがまわって来て、常にドラッグの影がある。アフリカにドラッグがないわけではありませんが、こういうのはあまり見ない光景です。
 
またある場面では、独居の老人が、契約切れかなにかで、もうここに住むことはできない、とりあえず必要なものをまとめて、とポリスに言われ「なにがなんだか…」と言いながらどこか(なにかの施設?)へ連れて行かれます。老人の独居というのは(私が知る限りの)アフリカでは普通はありません。この場面では女性ポリスが目に滲む涙をぬぐっていました。
 
 

ワイズマンのすごいところ

 
ところでシカゴはオバマ元大統領のホームタウンでした。テレビのドキュメンタリーでこういうのがあったんですね。
 

www6.nhk.or.jp

 

我が家はBSを見られないのでこれを見ていませんが、リンク先のページを少し読んだだけでも、シカゴの状況はこの映画のときとほとんど変らないか、むしろ悪くなっているようです。10年足らずで貧困やドラッグや老人問題などが劇的に変ることはないでしょうが… この同じ団地の今を見てみたいです。

 

ある場面で、(おそらく)管理組合(か、住民代表? 単に希望者?)に対し、この団地への公的資金補助のようなことについて、(なんらかの)公的な立場の人が説明します。

「仕事がない? 会社を立ち上げればいい。年間??万ドル(数字忘れました)の資金がここに割り当てられる。立ち上げた会社でここの改修工事を請け負えばいい」

住民の一人が言います。

「仕事がある? 自分は7年(?数字忘れました)も前から塗装の会社をやっている。でもいつもいつもよそから来る業者が目の前で仕事をしているのを見ているしかない」

説明をしに来た人物は、大丈夫だ、仕事はある、とあくまでも楽観的ですが、住民の表情は晴れません。場面は別のところへ移ります。

 

この人物がのちに、この地域の学校(たしか大学)で、まったく同じ話をするんです。ハンドマイクを持って、ちょっとエキサイティングな感じで。

彼はこの地区出身で、プロバスケットボールの選手を経て現在の(なんらかの)公的立場の仕事をしている、とここでわかります。

学生たち(だけじゃありませんでしたが)の中には、彼の話を静かに聞いている人もいますが、イエーと盛り上がる人たちもいます。

 

そこで映画は終わります。ぶつっと。

この終わり方。

ここで観ている者はいろいろと考えさせられます。

こういうところがワイズマンのおもしろさであり、すごさのひとつだと思います。