フレデリック・ワイズマン『パリ・オペラ座のすべて』
今年のシネマヴェーラ特集上映で観た5本目は、『パリ・オペラ座のすべて』です。
公開年:2009年
158min、カラー、35mm
『Ballet アメリカン・バレエ・シアターの世界』を観たので、こちらもぜひ観たいと思いました。あの作品一本ではわからなかったことが、こちらと比較することで何か見えてくるかもしれないと思ったからです。
まず劇場がすごい。
(怪人のいるところですからね)
『アメリカン〜』のほうでは稽古場とツアー公演が主な撮影場所で、母体劇場の内部を見ることはできませんでした。稽古場はおそらく劇場とは別のところにあるのだと思います。
オペラ座のほうは全てを備えた劇場で撮影されているので、衣装製作や照明なども含めた舞台制作全体を見ることができました。
稽古場ひとつとってもデコラティブで、アメリカン・バレエ・シアターとはだいぶ違います。
稽古風景においても運営活動においても、一番目立った相違点は、オペラ座では多くの言葉が飛び交っていたこと。そこはやはりフランスだなあ、と。
フランスらしく、引退後の年金の話なんかも出て来ます。
振付家に動きの修正を指導されても、ダンサーはただはいと言って直すのではなく、「難しいな…」にしろなんにしろ、必ず一言を返す。ただし、振り付けに関する反論というのはニューヨーク同様ここでもありません。
指導者が二人いればその二人がああだこうだと言葉を交わす。
あるいは(他にもこれこれをやっているし、年齢的にも)自分にはこの役は無理だ、と劇場のマダムに掛け合うダンサーもいる。
パリに比べたらニューヨークはおとなしいなあ、と思いました。
全く知らなくて恥ずかしいですが、オペラ座のバレエ団はコンテンポラリーダンスの公演もするのですね。クラシックしかやらないのかと思っていましたが、コンテンポラリーな作品も出て来ました。(最後のクレジットにピナ・バウシュの名前もあったり)
『パリ・オペラ座のすべて』のほうが『アメリカン〜』よりも若干短いのですが、いろいろ詰まっている気がしました。『オペラ座〜』のほうが中に出てくる演目が多かったかもしれません。
以前に「オペラ座は保守的で(個性的な)自分を受け入れてもらえなかった。だからロイヤル・バレエ団に入った」と、フランス人の有名なダンサーが言っていたのを読んだことがあります(ダンサーの名前は忘れてしまいました)。
本作を見ている限りなんとなく革新的なことも通りそうな雰囲気なのですが、やっぱりそうでもないのだろうな、という気はします。というのも、2009年の時点でも黒人ダンサーは一人もいない、少なくとも本作には登場しないから。
『アメリカン〜』は1995年公開ですが、黒人ダンサーの姿がありました。たった一人、男性ですけれども。
現在のオペラ座がどうなのかは知りませんが、この壁は厚いだろうと想像します。
最後はロミオとジュリエットの舞台でした(これはバレエを知らなくても何となくわかります)。
ジュリエットが、下にいるロミオのところへ行く、喜び、不安、逡巡… の後、ロミオを部屋に招き入れる…
最後にロミオが窓から外(客席から見たら向こう側)へ飛び降りた瞬間、映画も終わります。
私たち観客も一緒に、窓から飛び降りた状態です。
さて、私たちはどこへ着地するのでしょうか。