WILD SIDE CLUB - 映画について -

新作・旧作を問わず映画について書いています。長い映画大好き。まれにアートや演劇についても。

『シシリアン・ゴースト・ストーリー』 ー ジュゼッペという少年

シシリアン・ゴースト・ストーリー』

 

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脚本・監督:ファビオ・グラッサドニア、アントニオ・ピアッツァ

出演:ユリア・イェドリコヴスカ、ガエターノ・フェルナンデス、他

製作年:2017年

製作国:イタリア、フランス、スイス合作

シネスコ 123分



何の予備知識もなかったので、観る前はロマンティック・ファンタジーかと思っていたが、これがとんでもなかった。水を主要なモチーフとして展開される映像はファンタジックで美しいが、それとは対照的に話の内容は凄まじい。

 

マフィアに誘拐されて殺され、酸で溶かされた(!)少年の実話から作られたということは後で知った。最後にその少年に捧ぐ、とクレジットが出てわかった。

この「捧ぐ」がなかったら、本当にキツく救われない話で、嫌な気分を引きずってしまったと思う。

 

こういう事件は新聞で報道されるとしてもおそらく数行で済んでしまう。マフィアの発祥地シチリアでの事件であればなおさらだろう。そして少し時が経てば忘れ去られてしまう。

けれどもこうして映画作品となることによって、被害者の少年が、友だちと遊び恋もし、日々を楽しむはずだったこと、ひとりの生きた男の子であったことを、人々は改めて思い起こす。映画が、誘拐されて殺された少年、という匿名の(たとえ名前が明かされているにしても)存在に息吹きを吹き込んだ。

映画にはこういうこともできるのだ。

 

ガエターノ・フェルナンデスが演じるジュゼッペの優しく無垢な表情が、事件の悲惨さを際立たせる。ユリア・イェドリコヴスカは、ルナの、芯の通った性格と真っ直ぐな恋情を自然体で演じていて好感が持てる。二人が会う幻想のシーンでは画面のコントラストが強めになっていて、ゴーストのゴースト感が強調されている。

 

森の中、水の中、丘からの俯瞰など、自然の風景は美しいが、同時に、何か「ここからは逃れられない」というような息詰まる閉鎖性のようなものを感じた。そのように意図して撮影されているかもしれないが、この島がもともと持っているものかもしれない。

 

全く救いがないかというとそうでもなく、ラストのルナと友人たちが戯れる海岸のシーンには明るさの兆しが見え、すこしほっとした。