WILD SIDE CLUB - 映画について -

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『新聞記者』ー 最初にノーと言えなければ

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製作年:2019年

製作国:日本

監督:藤井道人

出演:シム・ウンギョン、松坂桃李

上映時間:113分

 

本作で扱われているテーマは、昔から、例えば松本清張のような“社会派”と言われる作家たちに取り上げられ、あるいは小説に、あるいは映画やテレビドラマなどになってきている(即座に作品名をあげることができないが)。

この作品がそれらと異なるところは、今現在日本で起こっていること(と同様のこと)をほぼリアルタイムで取り上げていることではないだろうか。観客がそこにみるのは現在の日本のリアルな姿のひとつである。そこでは未解決の個別のケースを通して、それらを培う腐敗した土壌という、階層の異なる問題が露わになる。

国家という抽象的な概念が、“上司”という駒を使い、一人の人間という具体的な存在を(その家族を人質として)絡めとり追い込んでいく。最初にノーと言えなければ、イエスと言い続けるしかなくなるのだ。

内閣情報調査室の官僚である杉原(外交官であり多くのユダヤ人を救った杉原千畝と同じ姓であるのは偶然だろうか)を演じる松坂桃李は、二重の意味で言葉にできない複雑な感情を、表情によって巧みに表現している。“二重の意味で”とは、まず苦悩があまりに激烈で“言葉にしたくてもできない”という意味であり、さらに仮にそれができても“言葉にするのは危険である”という意味である。

少ない登場人物、少ない場所での物語展開は、この作品が短い撮影期間で撮られたことを想像させる。それはおそらく製作者にとって“今”この作品を世に送り出すことが重要だったからだろう。そして、その物理的な制限が閉塞感を生み、この作品の息苦しい世界観を作り出すのに一役買っている。また、動的な新聞社内と静的な内閣情報調査室内を、カメラワークと色使いで対比的に描くことによって、物理的な動きの少なさを補完している。

本作はサスペンス映画のようでいて、実は観客にもあらかじめ結末まで見えてしまっているような映画である。それでもあえて映画館へ観に行くのは、なにかの答え合わせをしに行くような気持ちなのかもしれない。


#新聞記者 #松坂桃李