WILD SIDE CLUB - 映画について -

新作・旧作を問わず映画について書いています。長い映画大好き。まれにアートや演劇についても。

フレデリック・ワイズマン『病院』ー ニューヨーク・ハーレムの人々

今年のシネマヴェーラでの特集上映で観た3本目は『病院』です。

 

www.cinemavera.com

 

病院 Hospital(16mm)

 

原題:Hospital

公開年:1969年

84min、白黒、16mm

 

(以下、内容に触れます)

 

刺激の強い場面

 

本作品の舞台は、ニューヨークのハーレムにある市民病院です。

まず、横たわった人のお腹に印をつける場面から始まります。医師とおぼしき人が数人で取り囲んでいます。これから手術… というところです。

その後、メスで切って身体の中が見えるところまで行くので、そういう画像に弱い人には少々きついかもしれません。

私も決して強くはないほうなので、うわ、となりながら観ていました。これがカラーだったらどうだったろう、と思いつつ。

でもこの場面は、まだ「お腹に印→切る」という手術の手順で進むので、そういう心構えでみることができましたが、終盤で負傷して運ばれて来た人のキズを縫う場面はもっとキツかったです。かなり出血もしていたので…

 

これら流血絡みの場面は、なるべく目を逸らさないように観ていましたが、他につい目を逸らしてしまう場面がありました。ドラッグのバッドトリップで運ばれて来た若者の場面です。

「何を飲んだ? メスカリン?」

「そう… だけど前の時はこんなじゃなかった… 死ぬのかな…」

「大丈夫だ」

みたいなやり取りをしつつ、医師は患者に催吐剤を飲ませる…

このあとがひどい状態で、つい目を逸らしてしまいました。

若者はその後少し落ち着いて、自分の街から(州名を行っていましたが忘れました)ニューヨークへ来て全然いいことがなかった、もう帰るよ、と、うつろな目で言ったところで場面は変わりました。

 

病院から見える人々の暮らし

 

そんな「救急病棟24時」みたいな場面ばかりではなく、外来にやってくる普通の人々の姿も写し出されます。

自分の症状について恥ずかしがる老人、治療費の支払いについて心配する老女、医師から、今日は帰らないほうがいい、と言われても、どうしても帰ると主張する男性…

彼ら一人一人について、もちろん何の説明もありません。観客は見えてくるものからただ想像するだけです。

病気について、家庭の事情について、彼ら自身の心情について…

 

終盤に、さっきまで誕生日のパーティーを楽しんでいて、急病で運ばれて来たとおぼしき年配の女性が写ります。呼吸器をつけられています。娘(中年です)が一緒に来ていますが、医師から母親の容態はかなり危険な状態だと聞かされます。主治医の連絡先を聞かれ、それなら名刺を持っている、とお財布のようなものの中を探りますが、なかなか出て来ません。やっと見つかって、はい、とそれを医師に渡しますが、医師は「これは使えませんね」と彼女に返します。どこかのお店のポイントカードだったからです。

「あら私、どうしちゃったのかしら…」

人は本当に動顛すると、ぱっと見たところでは平静に見えるんですね。少なくとも取り乱しては見えない。そのリアリティにぐっときました。

 

この作品は84分と、ワイズマンにしては短いほうですが、病院という場所の性質上、あまり長いと観ているこちらもまいってしまうでしょう。

白黒なのも重々しいと言えば重々しいですが、かといってカラーだとしたら刺激が強過ぎる場面があるので、やはり白黒でいいのだと思います。