ジャック・ロジエ『オルエットの方へ』 ー 私たちのヴァカンス
あいかわらずなんてことのない時間
本作も当然ヴァカンスを描いています。女の子三人が海辺の別荘で過ごす二十日間(+α)のお話です。
実は今回も初回同様遅れてしまい、最初の部分を見のがしてしまいました。なので、三人でヴァカンスを過ごすことになった経緯を知りませんし、もしかしたら重要なことを見のがしてしまっているかも…
この波の音は印象的でした。ここまで大きく波の音を入れている映画ってあまりない気がします。よりリアルな感じ、ドキュメンタリーの風合い。
この笑い転げふざけ回る女の子たちに(私が)ついて行けなくなって来た頃、一人の男が登場します。ジョエルに気がある同僚ジルベールが、「通りかかった」と見え透いたことを言って三人の元へやって来ます。ここから話が(多少)動き出し、幾分調子が変ります。
このジルベール役の俳優は、『メーヌ・オセアン』で検札係を演じた(というか後に演じることになる)人ですね。本作では三人の女の子にウザがられながらも、なんとなく受け入れられ、でも散々からかわれて、最終的に途中で立ち去ってしまいますが、そのいかにもウザがられるタイプの男としてなんともいえずリアルな感じを醸し出していました。
そのほか、ジルベールが去る前に、「ヨット持ちのいい男」が出て来て女の子三人のバランスを微妙に崩したりするわけですが、ストーリーと言えばそれだけです。
一体、この映画の何がおもしろいのか?
そう思う人は思います。そしてこの映画をおもしろいと思う私も、同じ疑問を持ちます。前者は「おもしろくない」の反語的表現ですが、私は疑問文そのまま、「何をおもしろいと思うのだろう」と思います。
いまだによく分からないのですが、「それはストーリーではない」ということだけは言えそうです。
彼のヴァカンス、私たちのヴァカンス
彼女たちのヴァカンスをぼーっと眺めていた私たちを、ハッとさせる場面があります。
女の子たちにバカにされていると感じ、そのことにうんざりしたジルベールは、そのことを女の子たちに言い、去って行きます。そして彼が去ったあと、女の子の一人が(誰だったか忘れてしまいました)こう言います。
「私たち、彼のヴァカンスを台無しにしちゃったわね」
このセリフを機に、延々と続く他愛ないどうでもいいような話を見てきた私たちは、彼のこれまでの時間を思います。そしてさらに、自然と、なぜか、過ぎ去った私たち自身のヴァカンスを思うのです。多少の感傷とともに。
これは実に見事というほかなく、これまでの時間はこのためにあったか、と思いました。
とはいえ、ジャック・ロジエの意図する本当のところはわかりません。
たぶん、幾通りにも解釈は可能でしょう。本作品(というかすくなくとも今回続けて観た三作)は、そういう「開かれた」映画であることは間違いありません。