『タンジェリン』 ー タンジェリン色したL.A.のリアル
告知があってから楽しみにしていた、ショーン・ベイカー監督の『タンジェリン』、公開初日に観に行って来ました。
監督:ショーン・ベイカー
製作年:2015年
製作国:アメリカ
公式サイトや告知、フライヤーなどに使われていた画像を見て、この作品がどんな内容であっても(たとえつまらなかったとしても)観たいと思いました。
とにかく色が鮮やかで、その色合いがひとつの世界観を作っている感じ。クリスマスでもタンクトップでいられるような気候の地域の、強い日射しと乾いた空気がそのまま画面に現れているようで、それがどこか私の好きなアフリカを思い起こさせて… もう観る以外にないです。
(以下、内容に触れている部分があります)
冒頭から連れて行かれます
L.A.には一度しか行ったことがありません。その時も、西新宿みたいなホテルの近辺と、表参道みたいなショッピング街、アメ横みたいな問屋街しか行かなかったので、東京みたいで目新しさがなくてなんだかあんまりおもしろくないなと思いました。東京がアメリカっぽいってことなのかもしれませんが。あるいは都市の上っ面なんてそんなもんかもしれません(東京だっておもしろい街ではありますし)。
本作品では、おそらくL.A.の人もみんなが知っているわけではない(”そういう地区”ってことは知ってるけれども)ディープな地区が描かれています。
”トランスジェンダーのコミュニティーを描いている”だったり、”全編iPhone5Sで撮影されている”だったり、興味深い点はいくつかありますが、そういうことを知らなかったとしても、惹かれるものがありました。
刑務所から出てきたばかりのシンディが、ドーナツ屋で恋人チェスターの浮気を知らされブチ切れ、店を飛び出してチェスターを探しに出かける。カメラはそれについていく。そして私たちもいやおうなしに連れて行かれます。
マイノリティたちの群像劇
ストーリーとしては、簡単に言ってしまえば「浮気されたトランスジェンダーの娼婦の愛と友情の物語」です。そこにアルメニア人のタクシードライバーのサイドストーリーが絡んで来る。マイナー地区のさらにマイナーな人々の物語は、普段は見ることができないファンタジーのようでありつつ、ダイナミックなカメラワークと空気感が伝わってくるような色彩で、ドキュメンタリーのようにリアル。
知らなかったのですが、ショーン・ベイカー監督はおもしろそうな映画ばかり撮っていますね。中国料理のデリバリーで生計を立てる中国人の話、違法コピー品の売人のアフリカ系移民の話… 他の作品も観てみたいです。
今回も上映後にトークショーがあったのですが、なんと共同脚本のクリス・カーゴッチさんと、シンディにボコボコにされるダイナを演じたミッキー・オヘイガンさんが来日されていて、お話を聞くことができました。
監督もクリスさんも東の人だけれども、6ヶ月間この街に滞在してリサーチした。その中でシンディ役のキタナ・キキ・ロドリゲスさんとマイヤ・テイラーさんに出会った。彼女たちから取材しながらプロットを立て作品にしていった…
こちらのサイトの監督へのインタビューに、トークショーでは聞けなかったことが載っています。
音のことです。iPhoneでの撮影では、音はどうしたのだろう、と疑問に思っていましたが、ここを読んでわかりました。
このインタビューを読んで、ますますベイカー監督の他の作品も観てみたくなりました。
どこかで上映してくれるといいなあ。
あ、そうそう、一回だけ出て来るタンジェリンは印象的でした。