WILD SIDE CLUB - 映画について -

新作・旧作を問わず映画について書いています。長い映画大好き。まれにアートや演劇についても。

デイヴィッド・バーンが見せるユートピアの可能性 『アメリカン・ユートピア』

 

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アメリカン・ユートピア』(2020年)

監督:スパイク・リー

製作:デイヴィッド・バーン、スパイク・リー

出演:デイヴィッド・バーン、ジャクリーン・アセヴェド、グスターヴォ・ディ・ダルヴァ、ダニエル・フリードマン、クリス・ギアーモ、ティム・カイパー、テンデイ・クーンバ、カール・マンスフィールド、マウロ・レフォスコ、ステファン・サン・フアン、アンジー・スワン、ボビー・ウーテン・3世

 

衣装のスーツが持つ意味

ストップ・メイキング・センス』(1984年)の頃、ディヴィッド・バーンはスーツで擬装していた。スーツは“社会的にマトモな大人”の象徴であり、だからライト・グレーのあのビッグスーツは“社会的にマトモな大人”のコスプレ用スーツだったのだ。

彼は本当はもちろんマトモな大人だったから(マトモでないのはむしろ社会の方だ)それは一種のアイロニーであり韜晦だった。

 

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アメリカン・ユートピア』におけるスーツは、あのビッグスーツとは明らかに違う。ディヴィッド・バーンは、ここでは自身がマトモな大人であることを素直に打ち出し、スーツが持つユニフォーム的な面を肯定的に表現している。日本人がよく揶揄される「みんな同じ」スーツが、この舞台では、出自の違う人々を緩やかに纏めるパワーを持つ。その様子が観客の目に全体主義的に映らないのは、それぞれがことなる風貌で異なる楽器を持ち(または持たず)、異なる動きで全体を形作っているからだ。

 

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デイヴィッド・バーンの一貫性と変化

本作においてまず驚くべきは、デイヴィッド・バーンの変わらなさだ。

彼がこれまで一貫して表現してきたことは、現実がどんなにイカレているか直視しろ、正気になれ、ということで、活動の初期から40年以上経つ今もそれは変わっていないと、本作を観て実感した。そして全く衰えない歌唱の力にも驚く。正直に言うと、以前は彼の歌がうまいとは思っていなかった(“味のある”ボーカルとは思っていたが)。実際うまいというより、歌に力があるというほうが真実に近い気がする。本作の撮影当時67歳。変わらず力のある歌だ。

 

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もちろん変化している部分もある。

ストップ・メイキング・センス』の頃は、彼の風貌やアルバムのクールな印象とは裏腹に、ライブはエネルギッシュでパワフルで、アグレッシブと言ってもいいようなステージングだった。本作では、演奏は幾分ソフトになり(楽器数が少ないせいもあるかもしれない)、舞台装置はミニマルで、ステージングも洗練されている。また、観客とのやり取りもあり、終始穏やかだ。むしろこちらの方が、もともと彼が醸し出しているイメージに近い気がするのは私だけだろうか。

 

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洗練されたステージング

穏やかだからといってショー自体が刺激的でないというわけではない。ミュージシャンたちはみなパフォーマーとしてのスキルが高く、楽器演奏のみならず全員歌が歌えるし、動ける。スパイク・リーは彼らの素晴らしいフォーメーションを、ステージ頭上から、背後から、中央から、あるいはステージ上を動きながら撮影し、ショーの観客が見ることのできない部分を私たち映画の観客に見せてくれている。

 

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ストップ・メイキング・センス』は、観ているだけで熱くなるほどエネルギーに満ち溢れていて、踊りでもしないことには放熱しようがない作品だった。『アメリカン・ユートピア』も、もちろん踊りたくなる。踊りたくはなるが、しかし観ていることもできる。観ることによる参加が可能な作品になっていて、それこそが洗練であると思う。

 

ユートピアの可能性 

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持って歩けるものだけというシンプルな楽器構成は、彼らがそのままどこへでも行けることを表すかのようだ。そのような軽やかさや柔軟性をすべての人が持つならば、この世界はもう少しマシなものになるのではないだろうか。

 

本作のタイトルにあるUTOPIAは上下逆さになっていて、それを本当のUTOPIAにするには、文字をひっくり返すか自分が反対側へ行ってそこから見るしかない。これは、まずは凝り固まった世界の見方を変えることから始めようというメッセージなのかもしれない。そうすることによってユートピアの可能性が見えてくるのだと。

 


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